●第6回・T-MED政経文化塾論説

北方領土、前のめりの安倍首相と冷厳なプーチン氏

●「北方領土という言葉は不当だ」とロシア外相

 ロシアとの北方領土返還交渉に安倍首相はいくつかの背景から前のめりだが、プーチン露大統領の冷静というか冷酷な対応が明らかになった。
1月22日、安倍首相はプーチン大統領とクレムリンで会談した。

結果は北方領土問題で具体的な進展は見られず「2月に予定される外相会談などを通じて交渉を加速させる」ことで一致したにとどまった。会談後の共同記者会見で安倍首相が言った。
「じっくり胸襟を開いて話し合った。戦後70年以上残された課題の解決は容易ではないが、やり遂げなければならない」
 プーチン大統領の発言。
 「解決策を得るためには、入念な作業が今後待ち構えている。解決策は両国の国民に受け入れられ、世論に支持されるものでなければならない」
 プーチン氏は領土に触れず経済を語った。
 「会談では貿易や投資の拡大に重点を置いた。今後数年間で両国の貿易高を1・5倍の年300憶ドル(約3兆3千億円)規模に引き上げることも可能だ」

 これを受けて各誌が報じた。「領土交渉の長期化必至」(毎日)「日露、領土交渉長期化も」(産経)。首相は6月に予定されるプーチン氏の来日時に、平和条約交渉で大筋合意を目指しているが段取りが狂ったとみられた。
 昨年秋、プーチン氏が突然「一切の前提条件なしで年内に平和条約を結ぼう」と発言し、これに安倍首相が飛びついた形で事態が事態が急変した。首相は11月にシンガポールで言った。
 「私とプーチン大統領の手で北方領土問題に終止符を打つ。1956年の日ソ共同宣言を基礎に、平和条約交渉を加速させる」
ここで日ソ共同宣言つまり「歯舞と色丹の二島渡し」だけを明記した宣言を「基礎」としたことは大きな議論を呼んだ。ベテラン記者が言った。
 「これまで4島が未解決の領土問題を認めた、1993年、細川譲煕首相とエリツィン大統領の間で合意された東京宣言を外して『実質、2島に絞って交渉』に踏み切った。最初から最低ラインを示したことで、首相は外交的に判断ミスをしたのではないか」
 事実、この首相の「柔軟発言」を機にロシア側の強硬発言が始まった。
 プーチン氏は言った。
 「共同宣言に『2島を引き渡す』とあるが主権を渡すとは書いていない」
 ラブロフ外相はこれを補足するように河野外相に言った。
「クリル諸島(千島)は第2次大戦の結果、ロシア領になった。ロシアの主権を容認しなければ交渉は前進しない」
さらに次の言い方も。
「日本は国内法で『北方領土』という言葉を使っているが不当で受け入れられない。日本は第2次世界大戦の結果を認めていない世界で唯一の国だ」
 産経が社説で書いた。
 「日本がポツダム宣言を受諾したあと、ソ連が火事場泥棒のように占拠したのが北方領土である。ロシアが占拠を正当したヤルタ協定は、日本が当事国でもないこの密約に縛られる理由は全くない。ロシアがかくも強気で出ているのは首相が4島返還の原則から離れ、日ソ共同宣言を持ち出したからだ。これは2島返還への方針転換と受け取られた」

首相はなぜ日露交渉を急ぐのか。ベテラン記者が分析した。
「首相は長期政権の記録を塗りかえているがレガシー(功績)がない。祖父・岸信介の安保改定、大叔父・佐藤栄作の沖縄返還のような実績がない。そこで日露平和条約の締結に前のめりになっている。もう1つは中国の台頭に、ロシアと関係強化して対抗する戦略がある。しかしロシアは交渉を急いでいない。すでに北方領土はロシア人が住んでおり、日本人はいない。平和条約をエサに、貿易や投資を促す動きが長期にわたって続きそうだ。」

「永田町社稷会」主宰 鈴木棟一氏より